検証・南九州税理士会事件の答案構成

 あなたは、答案練習会などで南九州税理士会事件や群馬司法書士会事件が出題されたら、どのような答案を書きますか。私人間効力の問題として構成する人が多いと思います。しかし、判例はそのような構成をとってはいないのです。そこで、どのような構成をとればいいのか検討してみたいと思います。

1、私人間効力の問題とする構成

 まず、私人間効力の問題とする構成があります。これは、税理士会の処分は構成員の思想良心の自由(もしくは政治活動の自由)を侵害しているとして、人権規定が私人間に適用されるかを問題にし、間接効果説より、処分が民法90条違反にあたり無効、もしくは民法709条の不法行為にあたるとして損害賠償請求を認める構成です。
 ふつう、南九州税理士会事件が出題されたらこのような構成にすると思います。予備校などの参考答案もこのような構成だと思います。

2、統制権の限界の問題とする構成

 ところが、判例(最判平成8・3・19など)は民法43条の「目的の範囲内」かどうかの検討をしています。判例は私人間効力について間接効果説を採用し(最判昭和48・12・12など)、民法1条・90条・709条などの適切な運用によるとしているので、民法43条を持ち出す以上私人間効力の問題とはしていないといえます。それは「民法43条は、間接適用でいう一般条項としては適切でない」(西原・法教判例セレクト99p.6)からです。
 とすれば、判例の構成は、構成員の思想良心の自由(政治活動の自由)を侵害するような統制権の行使は、「目的の範囲」外にあり権利能力が認められないので、統制権の限界を超えており無効・違法であるということになるのでしょう。
 基本書でも、南九州税理士会事件は法人の人権享有主体性のところで紹介しており(芦部p.88、有斐閣憲法p.214。労働組合の判例で佐藤幸治p.428)で、私人間効力の判例とはしていません(ただ、百選は精神的自由の判例としており、どちらともとれます)。

3、どちらで書けばいいのか?

 理論的には、いずれの答案構成も正しいと考えられます。構成員の自由という側面からは、私人間効力の問題であるのに対し、法人の自由という側面からは、統制権の限界の問題になるからで、二者択一のものではないからです。
 そうであるとしたら、どちらの構成で書けばいいのでしょうか。判例の構成にのるのがいいかとも考えられますが、多くの受験生の採用する構成をとらないことは勇気が要ります。もし、私人間効力に配点がされていれば、そこについてはゼロ点ということになりかねないからです。
 また、私人間効力と統制権の限界の両方を混ぜて書くことも可能でしょう。この方法では、私人間効力を基礎に民法90条の公序良俗違反や民法709条の不法行為にあたるかを検討するにあたり、税理士会の処分が「目的の範囲内」といえるか検討することになるでしょう。ただ、二つの構成をうまくつなげるのにやや工夫がいるうえ、論証が倍近く長くなってしまう欠点があります。
 とするならば、どの構成は答案作成上の戦略の問題に過ぎないことになります。この点から考えると、私人間効力の問題は多くの受験生が書くことから、書かざるを得ないでしょう。また、両方の論点を書くと長くなりすぎるおそれがあることから、採用しづらい。とすると結局、私人間効力の問題とする構成が無難なのかも知れません。ただ、実質的には法人の統制権についての考慮がなされているのですから、その点に長くなりすぎない程度に触れることができるのであれば、より望ましいのかもしれません。

4、部分社会の法理は必要なのか?

 また、このような事案では、自主的な団体の内部紛争ですから部分社会の法理について論じます。そして、判例(最判昭和35・10・19)によれば、内部規律の問題は「自治的措置に任せ・・・・・、裁判にまつを適当としないもの」として、裁判所の審査権は及ばないと解することになります。
 ところが、本件判例は、構成員の選挙権・被選挙権を停止するという内部的な処分なのにもかかわらず、無効との判断をしているのです。裁判で当事者が部分社会の法理についての主張をしなかったことも考えられますが、たとえそうであるとしても、司法審査の対象とならないものであれば、当事者の主張を待たず裁判所は訴え却下判決をするはずです。なぜ、請求認容判決をしたのでしょうか。
 これは、実は判例のとる部分社会の法理が一般的・包括的なものではなく、団体の相違や権利の性質を考慮に入れ、個別具体的に検討する理論に立っていると解するしかないでしょう(ただ、そのように明示している判例はないと思われます)。

 この議論に参加して頂いた「法曹のたまごNET」の金子さん、Rakkoさん、吉澤さん、法田さん、日向さん、石田さん、高田さんと、BBSに書き込んでくださったNonさんにお礼を述べたいと思います。ありがとうございました。


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